災害が起きてから送ろうとしても、届きません。被災直後は配送の停止・遅延が起き、道路も止まります。親の備えは、何も起きていない平常時のうちに送っておくものです。この記事は、高齢の家族に何が実際に起きたかの公的記録から、送っておく品を逆算します。
「物資が届けば解決」に、高齢者はならない
熊本地震では、日本栄養士会の災害支援チーム(JDA-DAT)への食事相談432人のうち、65.3%(282人)が高齢者でした。内容は「食事が硬い」が14.4%、飲み込みの困難が11.1%。支援物資の定番(パン・おにぎり・カップ麺)は、噛む力・飲み込む力が弱った人には食べられないことがあります。
さらに、やわらか食が配られたのに「器がないこと」で食べられなかった実例が公的記録に残っています。物資そのものではなく、食べるための道具が欠けて詰まる。この型の失敗は、本人に合わせた備えを手元に置いておくことでしか防げません。
また、支援物資は避難所にいない人ほど届きにくい構造があります。東日本大震災では県や市役所に物資が集まっても各避難所に届かない問題が公式に記録され、熊本地震では避難者の68.3%が車中泊で、熊本県自身が「物資の支援や情報提供が不十分であった」と課題に挙げています。在宅で避難する高齢者は、この「届きにくい側」に入ります。
送る前に、電話で聞く
聞かずに送ると、合わない物が親の家で場所を取るだけになります。先に電話で確認してください。
- 家にいまある備え(水・食料・トイレ)はどれくらいか
- 入れ歯を使っているか
- 硬いもの・飲み込みにくいものはあるか
- トイレは洋式か。夜のトイレに不安はあるか
- 薬は何を飲んでいるか(送るためではなく、把握しておくため。後述)
- 送った箱をどこに置くか(取り出せる場所を一緒に決める)
食事 - やわらかさと「食べる道具」をセットで
やわらか食・おかゆなどのレトルトは、そのまま常温でも食べられるものを選ぶと停電時にも使えます。飲み込みが心配な場合はとろみ剤も一緒に。そして上の実例のとおり、紙皿・紙コップ・使い捨てスプーンを必ず同じ箱に入れてください。断水中は洗い物ができず、器が無ければレトルトは開けても食べられません。
トイレ - 我慢は一番危ない
断水すると水洗トイレは使えず、復旧には時間がかかります(東日本大震災の断水解消は事業体により10日〜6か月)。トイレの不安から水分を控えると、高齢者は体調を崩しやすくなります。自宅の便器に付けて使う簡易トイレを、1人1日5回×まず3日分。
尿とりパッド・大人用おむつは、使っている本人ほど言い出せません。内閣府の避難所チェックシートには「男性トイレ:尿取りパット等の配置」と明記され、現場記録には「男性にも尿もれパッドが欲しかったが言い出せなかった」という声が残っています。避難先で配布員に頼みにくい品ほど、家に備えておく意味があります。普段使っている銘柄・サイズを電話で聞いてから送ってください。
口のケア - 断水中こそ
断水中は歯みがきがしづらくなりますが、避難生活では口の中を清潔に保つことが重視されています。熊本地震の災害関連死は呼吸器系の疾患が最も多く(28.4%)、熊本県歯科医師会が口腔ケアの重要性を報告しています。水を使わない液体歯みがき・歯みがきシート、入れ歯なら義歯洗浄剤(内閣府の備蓄チェックシートに明記されている品目です)を。
薬は送らない
処方薬・市販薬を家族の判断で買って送ることはしないでください。飲み合わせや持病との相性は、かかりつけの医師・薬剤師にしか判断できません。家族ができる備えは、何を飲んでいるかを平常時に把握しておくことと、受診先・かかりつけ薬局を聞いておくことです。
水と食料の基本量
水は1人1日3リットルを最低3日分(農林水産省)。ここは高齢者も同じです。量の計算と点検の手順は「備蓄の見直しチェックリスト」に、品目ごとの根拠は「被災中に必要になるもの一覧」にまとめてあります。
送ったら、置き場所と「年1回」を決める
送った箱が押し入れの奥に仕舞われると、いざという時に取り出せません。電話で置き場所を一緒に決めてください(寝室か、玄関の近く)。そして年に1回、防災の日などに中身の期限とサイズを電話で確認する。それだけで備えは生き続けます。
実際に災害が起きたときは、まずトップページの住所検索で親の地域の停電・断水・地震の公式情報を確認できます。発災後に物を送る場合の注意(配送の停止・受け取り場所の問題)は「離れた家族への支援物資の送り方」をご覧ください。
出典: 齋藤かなた・須藤紀子ほか「熊本地震において災害時要配慮者が直面した食の問題」日本健康学会誌 2021;87(2)(JDA-DAT相談432人の解析・高齢者65.3%・食事が硬い14.4%) / 内閣府「平成28年度 熊本地震における避難所運営等の事例」(器がなく食べられなかった実例) / 熊本県「平成28年熊本地震における車中泊の状況について」(車中避難68.3%・支援が不十分との課題) / 内閣府(防災担当)「東日本大震災における災害応急対策の主な課題」平成24年7月(避難所に物資が届かない問題) / 内閣府「災害関連死事例集(増補版)」令和5年5月(熊本の死因分類・熊本県歯科医師会の報告) / 内閣府男女共同参画局 避難所チェックシート(男性トイレへの尿とりパッド配置) / 同 備蓄チェックシート(義歯洗浄剤・とろみ剤の明記) / 国土交通省「断水解消が長期化した要因の検討」(断水解消10日〜6か月) / 農林水産省 家庭備蓄ポータル(1人1日3L・最低3日分) 。体調・持病に関わる判断は、必ずかかりつけの医師・薬剤師にご相談ください。